2013年7月2日火曜日

大麻栽培、町おこしの種 鳥取・智頭、Iターン農家挑む

朝日新聞デジタル版(2013年7月2日)

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大麻栽培者免許を取得した上野俊彦さん。畑では大麻草がすくすく成長していた=鳥取県智頭町八河谷
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畑でぐんぐん伸びる大麻草=鳥取県智頭町八河谷
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鳥取県智頭町の地図

 【村井七緒子】鳥取県智頭町の山あいで、大麻草がすくすく育っている。免許を得て栽培に取り組むのはIターン農家。幻覚成分をほとんど含まない品種で、神事に使うほか、日用品や食品への加工もめざす。町は、免許取得を全面的に支援。新たな町おこしに期待をかけている。
 智頭町八河谷(やこうだに)の農家、上野俊彦さん(33)。東日本大震災をきっかけに、昨春、群馬県から家族で、受け入れの盛んな智頭町に移住した。同集落は人口約40人。高齢化率は5割を超える。
 長老から「昔はここで麻を育てていた」と聞いた上野さん。免許を得て大麻を栽培する農業法人で、以前働いていたことを長老に打ち明けると、「ここでやればいい。わしにできることは何でもやるけ」と背中を押された。
 大麻は古くから日本各地で栽培され、茎からとれる繊維をしめ縄や草履、蚊帳などの日用品に使い、種子を食料にしてきた。だが、大麻取締法で栽培が都道府県の免許制となり、伝統的祭事に不可欠な場合などに限られること、化学繊維が増えたことなどで栽培面積は激減した。
 厚生労働省によると、1963年に全国で8625人いた大麻草の栽培者は、2011年には50人となり、栽培面積も932ヘクタールから北関東滋賀県などの約5ヘクタールに減った。鳥取県でも03年以降、栽培者が途絶えていた。
 育てるにはまず栽培者免許の申請が必要だ。「1人で行っても門前払いされるのではないか」と思った上野さんは今年3月、町に相談した。熱心な説明を聞いた山村再生課の国岡秀憲さん(35)は「ぜひやりましょう」。町のイメージが悪くなる懸念もあったが、町では、地域資源を再発見して暮らしを守る取り組みをしており、「地域活性化につながるなら、やってみようと思った」と国岡さん。寺谷誠一郎町長も「おもしろい」と支援を約束した。
 準備は入念に進めた。町には、平安時代の歴史書「日本三代実録」にも登場する神社がある。神事用に今は中国製の繊維を使っているが、神社側は「収穫した麻をしめ縄などに使いたい」と言ってくれた。
 また、かつて栽培していた高齢者に取材。大きな釜で茎を蒸して繊維を取っていた様子や、丈夫な麻には多様な用途があったことなどを語ってもらい、映像に収めた。
 町を挙げての申請を受け、県は2度の協議の末、4月末に免許を交付。品種は幻覚を引き起こす成分をほとんど含まない「とちぎしろ」に限ること、盗難防止に畑の周囲に柵や監視カメラを設置することなどを条件とした。県医療指導課の担当者は、「地元の後押しもあり、神事での伝統の復元など社会的有用性が認められた」と理由を話す。
 上野さんは「町の職員が話を聞いてくれ、ありがたかった。産業として育て、活性化や雇用に貢献したい」と意気込む。今年は約2300平方メートルの畑で主に種子を収穫し、本格的に繊維が取れるのは来年から。実はみそやヨーグルトに混ぜた食品として、繊維は和紙の原料などとしても活用したいという。
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 〈大麻〉 1年草で2~3メートルに育つ。葉や花に幻覚成分が含まれるが、繊維をとる茎や、食料にする種子には含まれない。乱用防止を目的に1948年に制定された大麻取締法では、免許を受けた栽培者と研究者を除き、所持や栽培、譲渡などを禁止している。日本での栽培は、縄文時代に始まったとも言われる。神事と縁が深く、伊勢神宮三重県)のお札は今も「神宮大麻」と呼ばれる。戦前から代表的産地だった栃木県が83年に開発した「とちぎしろ」は「無毒大麻」とも呼ばれるが、これも法規制の対象。

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